人気ブログランキング | 話題のタグを見る
2021年 09月 11日
水滸伝の謎~折可存と宋江の乱
絵巻水滸伝の最後に、宋国の実在の将軍が何人か登場しました。
実際に方臘の乱に従軍した人々ですが、今日はその中でも、“年若い名家の将軍”──「折可存」に注目してみようと思います。

1939年,府州天平山(現在の陕西省府谷県)の北宋墓で、ひとつの墓碑が発掘されました。
それが、『折可存墓誌銘』です。
北宋の将だった彼の伝は、宋史にはありません。さほど有名ではない人です。
その生涯が、この墓碑銘から明らかになりました。
それによると、彼は西夏戦や方臘戦で活躍し、童貫の覚えもめでたく順調に出世したようです。
そして、金軍と戦い、捕虜になるも、脱走します。
しかし、負傷していたのでしょうか、三十一歳の若さで亡くなり、上述の墓に葬られました。

この、さほど長くない墓碑銘の中に、水滸伝にとって重要な一文が含まれています。
すなわち
「方臘の乱が鎮圧され、帰京する途上で、宋江の乱鎮圧を命じられた」という一文です。

我々がよく知っている水滸伝の時系列が、ここでは少し違っています。
方臘の乱が鎮圧された時には、宋江の乱はまだ続いていた、ということになるからです。


実は、この墓碑銘の存在を知ったのは、最終章の執筆中で(不勉強で恥ずかしいのですが)、
「方臘の乱鎮圧の後、梁山泊がもう一度、反乱を起こす」という物語を創っている最中でした。
そうでなければ、あのような“悲劇”は起こらなかったはず──と思わずにはいられなかったのです。

史実と創作が、またしてもピタリと一致した瞬間でした。

この『折可存墓誌銘』は、現在は西安の碑林博物館に収蔵されているそうです。
いつか、お礼(?)を伝えに、訪ねたいと思っています。


ちなみに、絵巻の本文からは削除されましたが、みんなの嫌いな王稟は、後に故郷の太原で金軍と熾烈な攻防戦を繰り広げ、最期は打ち破られて汾水に身を投げて自害します。
宋国の将軍たちにもそれぞれの物語がありますので、悪役にされて、ちょっと気の毒でしたね。


(森下翠)


水滸伝の謎~折可存と宋江の乱_b0145843_18581166.jpg
我々は決して負けない!! All Men Are Brothers      梁山泊一同

被害に遇われた皆さまに、心よりお見舞い申しあげます。被災地の復興をお祈り致します。




by suiko108blog | 2021-09-11 20:36 | Suiko108 クロニクル | Comments(4)
Commented by しろうさ at 2021-09-13 06:31 x
>不勉強で恥ずかしい
ひええええ森下先生にそう言われてしまうと、作品を読んでから「この時代についてもう少し詳しく調べてみようかな……Youtubeで検索っと……」とやっている私などどうなってしまうのでしょうか。

>史実と創作が、またしてもピタリと一致した瞬間
こういう時、とても心が沸き立つ瞬間だと思います。

いつになったら普通に海外に旅行(もとい聖地巡礼)など行けるのかと思うとため息が出ますが、今は我慢していきたい場所リストを作っています。
Commented by suiko108blog at 2021-09-13 07:38
> しろうささん
おはようございます!
久しぶりの更新でしたが、早速のコメントありがとうございます。
いやいや、読者のみなさんも絵巻で勉強(?)していますから、世の中から見たらものすごく詳しいはずですよ!
水滸伝は内容も成り立ちも壮大な物語ですから、まだまだ「水滸伝の謎」はありそうですね。
聖地巡礼、行きたいですよね。
「絵巻が完結したら山東梁山泊へ!」という夢があったのですが、いったいいつ実現するんでしょう。リストを作って気長に待ちますか……!
Commented by 雲海 at 2021-09-13 21:25 x
こんばんは。
なんでしょう。こういった有名じゃないひとも
何か残していくというのが、これこそ宿命なんでしょうか。
顧みられないってことは世の中ないのでしょうねぇ。
王稟(まさに汚れ役でしたねぇ)にも、戦い抜いて
散ったのですか。まぁ、物語的に悪い方に仕えると
いうことはそうなるんでしょうねぇ。そういう
ひとの思いを体感できるのも歴史の面白さ
ですねぇ。
聖地巡礼いいですよねぇ。やはり、六和寺は
外せませんな。コロナ終息を心から
祈るばかりです。
Commented by suiko108blog at 2021-09-14 09:18
> 雲海さん
おはようございます。
それが、歴史を題材にした物語のもっとも難しいところだと思います。
どちらにも「ウソ」にならないように、慎重にすり合わせていくしかないですね。
実在の王稟殿、最後はかなり頑張りました!相当な激戦のなか、数カ月にわたり太原を防衛します。
最後は力尽きますが、その時、阮小七の顔がチラリと浮かんだかな?などと絵巻脳で考えてしまいました。


<< 英語で好漢(97)      英語で好漢(96) >>