あだ名の“病大虫”とは、『顔色の悪い虎』。もしくは『虎もどき』。
洛陽でも名門の武家の出だが、祖父の代に家産を失い、武芸を見せながら家伝の膏薬を売る大道芸人に零落した。
育ちが良いため、人柄は真面目で礼儀正しい。しかし、江湖のしきたりに通じておらず、商売もへたで、衣食にも事欠くことが
多かった。
その行商中に知遇を得た宋江が謀叛の疑いを受け死刑になりかけると、穆弘らと共に江州へ救出に赴き、
同じく宋江救出に来た梁山泊に加わった。
彼の生涯は、ささやかで、はかなく、なんの華やかな出来事もなかった。
しかし、その孤独な旅路の傍らには、常に愛犬“太白”が従っていた。
結ばれなかった恋人との絆は、なによりも深いものであった。
深い山奥に踏み込んだものだけが桃源郷に出会えるように、
ひそやかに去った人、人しれず過ぎた生涯にも、強く、熱いものが隠されているのだ。