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2018年 09月 12日
『絵巻水滸伝 第9・10巻 天魁星受難』登場好漢(3)
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“浪裏白跳”張順(ろうりはくちょう ちょうじゅん)(其の三)


 決死隊は火箭や弩で元軍の攻撃を防ぎ、また河面にめぐらされた鎖を断ち切りながら、ひたすら襄陽を目指して河を下った。
 その中で、張順が体に四槍六箭を受けて戦死。流れに沈んだ。
 果てしなく思われる戦いのすえ、波の彼方に襄陽の城壁が見えたのは、すでに夜が明けようとする頃だった。
 翌日未明、張貴は生き残った男たちを率いて、襄陽の城下に至った。長く補給を受けていなかった城内の軍民の歓呼の中を、入城した。
 数日後、戦死した張順の遺体が川面に浮かび、襄陽に流れ着いた。その顔色はまるで生きているかのようで、人々は涙を禁じえなかったという。呂文煥(注;襄陽の守将)は張順の遺体を清めさせ、塚を築き、廟を建てて祀った。
 張貴は、再び出撃しようとしたが、呂文煥に止められ、そのまま襄陽に止まった。しかし、九月に入ると、張貴はテイ州に戻ろうと考え始めた。
 彼らが入城して以来、元軍の包囲はますます厳重になっている。張貴は数日も水中に潜っていることのできる男を選んで蝋に封じた密書を持たせ、郢州の范文虎に敵を挟撃するべく援軍の出兵を要請した。
 張貴らは闇に紛れて襄陽を出ると、敵の真っ只中に漕ぎ出した。
 モンゴル軍は、その暴挙に驚き、たじろいだ。
 すぐにアジュ(注;元軍の将)と劉整(注;元に降った元南宋の将)が邀撃に出た。
 張貴は漢水の流れにそって下り、小新城で元の大軍と衝突した。沿岸にはかがり火がずらりと灯され、辺りは真昼のように明るかった。戦いながら竜尾州まで進んだ時、張貴は彼方に一群の戦艦を見つけた。
 援軍だ、と花火を上げて合図した。
 しかし、それも敵だった。
 頼みとする援軍は、一旦は出撃したものの、怖じ気づき、遙か彼方に後退していた。
 命懸けで襄陽に補給を行った彼らは、臆病者の范文虎に裏切られ、見殺しにされたのだった。
 張貴の軍は、奮戦むなしく全滅した。
 張貴は身体中に数十創を受けて捕らえられ、降伏を迫られた。
 それを頑にこばみ、張貴は殺され、その遺体は襄陽へと送られた。
「“矮張”を知っているか? これがそうだ!!」
 使者が示した遺体を見て、襄陽を人々はみな哭いた。
 呂文煥は使者を斬り、張貴を張順の廟に合葬した。
 孤立した襄陽にとって、二人の張の活躍は、希望の象徴だった。その二人の死に、城内には急速に絶望の気配が深まっていった──。


 南宋が滅びるのは、それから四年後のことです。
 実在の張順については、これ以上のことは分かりません。
 しかし、国家の存亡をかけて戦った多くの“水の申し子”たち、歴史の一頁を“波間の白魚”のごとく駆け抜けていった男たちの記憶は、張順、そして張横に託されて、永遠の命を得たのです。
     
    森下翠・著『元宋興亡史』(学研M文庫) より抜粋   
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by suiko108blog | 2018-09-12 00:00 | 絵巻水滸伝のススメ | Comments(4)
Commented by あーる at 2018-09-12 00:59 x
ごぶさたしております。
転勤して骨折して、
気がつけば9月…(〃゚д゚;A …
本が届くたび、“一期一会”の想いに
感動を新にしています。
招安篇に続き、ついに遼国篇も発売♪
早速注文させていただきました。
薬師徐京…あんな強い男が!!

元宋興亡史は何度読み返しても
本物の節義について
考えさせられる作品ですね。
表紙も素晴らしい!!
ぜひ再販しましょう(笑)
Commented by suiko108blog at 2018-09-12 10:31
> あーるさん
おひさしぶりです!ええっ骨折!それはたいへんでしたね……!
書き込み、嬉しいです!
やはり、おなじみの方がしばらく書き込みがないと「元気だろうな」とは思うのですが、少し心配……。
一言でも、気が向いた時にコメントしてみてくださいね。
書籍のご予約もありがとうございます!
徐京は田虎軍とともに、梁山泊に加わってほしかったですよね……。
好漢たちは、わりと世間的に孤独ですが、梁山泊の兄弟以外にも、ちゃんと分かり合える仲間がいるんだな……と思えた人たちでした。

元宋、懐かしいですね!いろいろな思い出が詰まった一冊です。
そういえば、江州篇を書いている時に、元宋の準備をしていて、その時に、森下翠は生涯唯一の入院生活をおくりました!

Commented by 出雲 at 2018-09-12 16:50 x
こんにちは。

森下先生がこのような関連歴史の著作を書いたのは初めてです、びっくりしましたね。
機会があれば、代理購入サイトを通して拝読したいと思います。
水滸の物語が早かったのは南宋の講談録だ、中には実在の人物を取材しているキャラクターが多い。
襄陽張順のほかに、宋江、解寶、關勝、史進(史斌)、董平、孫立、李逵、彭玘、李忠、王進、太行山の張橫、燕青(梁青)などがあります。
ほとんどは宋の抗金将校だ、あるいは民間の忠義勢力。
原作の詩も秦桧と岳飛にも言及、研究者が映ったのは時事だと思っている。
これらの実在する好漢たちの物語は、記録と流布されている、楊林(x)のような講談師と森下先生のような歴史学者に感謝すべきです>_<
金曜日の新連載を楽しみにしています。

では。
Commented by suiko108blog at 2018-09-13 09:20
> 出雲さん
おはようございます!
とても歴史に詳しいですね!
水滸伝には、激しい歴史の波濤を体験した人々の、様々な思いが凝縮されていますね。
そのために、水滸伝が単なる架空の物語ではなく、まるで歴史と同じような現実感、重厚感があるのかもしれません。
『元宋興亡史』、機会があったら読んでみてくださいね。
今週は更新もありますから、どうぞお楽しみに!


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