「海賊船だ!!」
それは船に灯された篝火であった。数えきれぬほどの火が、この船に向かって押し寄せてくる。どの船にも二、三十人ほどの海賊が乗り込んでいた。
「あの海賊はなにものだ?」
その問いに、安道全が答えた。
「犬医者が賞金稼ぎに追われているのだ」
海賊はみな一隻の小舟を追いかけていた。波間に目を凝らしていた童猛が叫んだ。
「戴宗兄貴だ!!」

追われる小舟を漕いでいるのは“神行太保”戴宗だった。その前には、巨漢の護衛二人に守られた“紫髯伯”皇甫端が座っている。海賊の船から鉤のついた縄が投げられ、皇甫端の護衛がそれを掴んで海に落ちた。横からも別の船が襲う。残った護衛が蛮刀を抜き、海賊船に飛び込んだ。その姿は、たちまち敵の中に見えなくなった。
安道全が太子に怒鳴った。
「何をしている、あいつが、お前たちが探していた皇甫端だ」