八十万禁軍槍棒師範であった林冲は、『性、温雅にして、その勇、豹のごとし』と謳われた、宋国随一の槍棒の使い手です。宋国の都・開封(現在の河南省)で、妻の張雪蘭(ちょうせつらん)と平穏な日々を送っていましたが、桜散る晴明の相国寺で、その運命は急変します。
林冲は訳が分からないままに殺人者の汚名を着せられ、親友と信じていた陸謙(りくけん)に裏切られ、最愛の妻をも失います。
絶望の淵に堕ちた林冲を救ったのは、魯智深ら運命に導かれて集った男たちでした。しかし、約束の地であったはずの梁山泊に辿りついても、林冲の魂に安息が訪れることはありません。常に身にまとっている白衣は喪服であり、彼の癒されぬ悲しみの色でもあります。凍てついた宿命を一人さまよう林冲に、辿りつくべき場所はあるのでしょうか。