『絵巻水滸伝 第7巻〜軍神独歌行』ハイライト(12)
孫立は花栄の背後に駆け寄った。
「花将軍、頼みがある」
「後にしてくれ、俺はいま忙しい!!」
「交代してはくれまいか」
「なんだって?」
呼延灼が孫立に打ちかかっていく。
「しかたないな!!」
花栄は笑って、馬を離した。
どちらが宋国一の鞭の使い手かを決する戦いである。三本の鞭がぶつかり凄まじい火花を散らした。

名は同じ“鞭”とは云っても、二人は異なる鞭法を会得している。
“病尉遅”孫立は唐朝の建国の英雄・尉遅敬徳の鞭法を会得し、また呼延灼は宋朝の建国の英雄・呼延賛の鞭法を受け継いだ。
呼延灼の鞭は八稜鋼鞭──八つの角を持つ鋼鞭である。対する孫立の鉄鞭は竹節虎眼、軽くしなって、柔よく剛を制す。二人は左右に鞭を振るい、二、三十合も渡り合った。さながら呼延賛と尉遅恭、古今の英雄が戦うがごとく、勝敗は容易に決しなかった。
絵巻水滸伝(第7巻)(第五十回 襲来より)