★金銭糧食を司る頭領おもに梁山泊の軍事を扱う聚義庁首脳部とは別に、後方支援を担当する好漢たちのリーダーです。
梁山泊には沢山の住民が住んでいます。彼らの衣食住をまかない、そして、戦となれば数万の兵士のための兵站を輸送しなければなりません。梁山泊が年間、どれくらいの予算を必要とするか……おそらくたいへんな金額になるでしょう。それを管理するのが彼らの仕事です。柴進は外交交渉や“鶏狗”を使った情報収集や輸送路の確保、李応は全国にある“店”の管理運営も行っています。平時も働き、戦時にはさらに忙しくなる激務です。
11★天富星“撲天チョウ”李応
(てんふうせい はくてんちょう りおう)あだ名は“撲天チョウ”──「天を撃つおおとり」の意。点鋼槍(磨き上げた鋼の槍)の使い手で、背には五本の飛刀を隠す。隼の眼、鷹の眸、堂々たる風貌の持ち主で、財を疎んじて義を重んじ、壮士の名に恥じぬ人物である。
もとはウン州独竜崗の麓にある李家荘の長者で豪勇をもって知られていた。独竜崗の麓には、李家の李家荘、祝家の祝家荘、扈家の扈家荘が隣接しており、三荘は常日頃から梁山泊の掠奪に備えていた。そんなある日、“鼓上蚤”時遷が祝家荘で鶏を盗んだことから、梁山泊との戦端が開かれる。すでに“病関索”楊雄、“ヘン命三郎”石秀と知己を得ていた李応は仲裁に乗りだすが、失敗してしまう。その後は中立を守るが、戦が終わると、李応の人柄を見込んだ梁山泊になかば無理やり仲間入りさせられた。
李応は非常に寛容な人物で、薊州で殺人を犯し、かつ人も恐れる醜い容貌の杜興に目をかけ、屋敷の一切を任せるほど信頼していた。また突如訪れた楊雄ら──彼らも薊州で殺人を犯して逃亡中の者たちである──にも、助力することを惜しまない。しかし、祝家荘に侮られると自ら甲冑に身を包んで乗り出す血気さかんなところもあるが、梁山泊軍が押し寄せて祝家荘戦が始まっても、復讐のために賊である梁山泊に力を貸すような軽率な行いはしなかった。
“撲天チョウ”李応は、道理をわきまえた鷹揚な富豪の風格と、英雄の激情を併せ持つ、たいへん中国的な「大人」である。
「絵巻水滸伝」(第二部)連載中!(
キノトロープ/絵巻水滸伝)