
“浪裏白跳”張順(ろうりはくちょう ちょうじゅん)
潯陽江(現在の江西省)の魚河岸を取り仕切る漁師の元締め。体が練り絹のように白く、泳ぎの名手で、水中を行くこと“波間の白魚”のごとし。彼は水の申し子であり、七日七晩、水中にいることもできるという異能の持ち主です。“船火児”張横の自慢の弟でもあります。
張順はかつて追剥の兄とともに潯陽江で荒稼ぎをしていたこともありますが、いつしか足を洗い、魚河岸の顔役となりました。
水中では無敵、血気盛んな水軍中にあって冷静な知性派である張順は、宋江、呉用から厚い信頼を受け、梁山泊でも水軍頭領として活躍します。
実は、この張順には、モデルとなった人物がいます。
梁山泊の物語から数年後、宋は女真族の南下を受け、江南・杭州の地へ南遷します。水滸伝の舞台となった宋は「北宋」、この南遷した宋は「南宋」と呼ばれます。この南宋も、やがてモンゴル軍の猛威を受け、滅亡の時が迫ります。
この期に及んでも、奸臣の横行によって腐敗した南宋朝廷は現実から目を逸らし、各地を防衛する将軍たちは厳しい戦いを強いられます。特に南宋防衛の要衝であった襄樊城(じょうはんじょう・現在の湖北省)はモンゴル軍の猛攻を受け、激しい籠城戦が続いていました。
時は南宋末、1272年のこと。
襄樊の籠城は四年目を迎えていました。
少し長くなりますが、次回は森下翠の『元宋興亡史』(学研M文庫)から『張順の物語』を抜粋してお送りします。
絵巻水滸伝(第5巻)