鶏鳴狗盗(けいめいくとう) “今孟嘗君”とも呼ばれる梁山泊の“小旋風”柴進は、自分の抱える異能集団を『鶏狗』と呼んでいます。
その由来となった「鶏鳴狗盗」とは、鶏の鳴き真似のうまい者と、犬のように人の家に忍び込むこそどろのこと。鶏鳴狗盗が孟嘗君の危難を救った故事から、つまらない能力の者も養っておけば役に立つ、という意味でもあります。
孟嘗君(もうしょうくん)は戦国時代の斉の公子で、私費を投じて屋敷に三千人ともいわれる多くの食客を養っていました。その中には亡命者や罪人もおり、また一芸があれば鶏鳴狗盗のような者でも厭いませんでした。そして、実際、秦で危地に陥った孟嘗君を救ったのは、脱出のための賄賂となる白狐の皮衣を盗み出した“狗盗”と、夜明けを告げて城門を開かせた“鶏鳴”であったのです。
柴進の『鶏狗』たちは、名もなき者でありながら、それぞれ人には真似できない能力の持ち主です。それを『鶏狗』と名付けたのも、皇統の貴子・柴進一流の諧謔なのでしょう。
なお、孟嘗君が封じられた薛の地は、梁山泊の西北100キロに位置します。このあたりには後々まで荒々しい無頼の気風があった──と、司馬遷が『史記』に書き残しています。
(挿絵は「絵巻水滸伝」より“小旋風”柴進)