“托塔天王”晁蓋の仇を報ずる。
林冲は蛇矛を握りしめた。柄はすでに血にまみれ、掌から滑り落ちそうだ。彼は百騎の白衣兵を率い、曽頭市軍の中核──曽弄へと執拗に突入を試みていた。林冲は常に白衣を身につけ、それは喪のしるしである。初め亡き妻のためであったが、今日は晁蓋のために、その白衣は紅に染まるであろう。
林冲は敵を切り払いながら、戦場を駆ける。怒号と喧騒、刃が飛び交う。
嵐の中を駆けているような気がした。
“あの日”と同じ、真っ暗な嵐の中だ。晁蓋を失った夜、林冲は叩きつける風雨の中を駆けめぐり、戦い続けた。
曇天に、冷たい風が吹き抜ける。すでに一月──初春というのに、雪さえ降りそうな冷たい空に風が吹きすさんでいた。